映画「この子の七つのお祝いに」


岩下志麻                       根津甚八

今回は増村保造監督1982年製作「この子の七つのお祝いに」をピックアップする。
本作はミステリー小説を映画化したものだが、早い段階で犯人が分かってしまうという構成だ。そう思いつつも、岸田今日子さんの怪演と岩下志麻さんの感情を殺した熱演に見入ってしまう作品である。


杉浦直樹、岩下志麻               室田日出男、小林稔侍

美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道」 (春日太一著・文藝春秋刊)より
A:岩下志麻 Q:春日太一
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Q:次にうかがいたいのは「この子の七つのお祝いに」です。
A:この映画のことは、今回見直すまでほとんど忘れていました。というのも、増村監督の演出と私が全く合わなかったんです。それでも最終的には監督に従ってやりましたけど。増村さんは独自の演出のされ方でした。例えばレンズから覗いていて「この1メートルの横幅の中で動いて下さい」とか、そういう要求をなさるんですよ。そうすると、こちらはとても不自然な動きになります。それが私は耐えられなくて。自然にやれないので。それがまずできなかったのと、それと声の出し方です。私が演じたのは怨念を持った女でしたが、表向きは自然にやっていて、実は裏に怨念を持っていた女という役作りをしていたら、監督が「低い声で、しゃがれた声で、恨みを持った声で」と言って、ちょっとでも高い声を出すとNGが出るんです。「もっともっと」って。監督としては岸田今日子さんが演じられたような、ああいうおどろおどろしさが狙いでした。
Q:たしかに、増村監督は芝居にある種の分かりやすさを求める傾向があります。
A:ですから、杉浦直樹さんに「愛してるわ」と言うセリフでも、普通に「愛してるわ」というとNGで、くっきりはっきり低い声で「愛してるわ!」と言うとOKでした。怨念を持って、低い声で、芝居がかって言うとOKなんです。その辺が、私が持っていた麻矢という女の人のイメージと異なっていました。でも、今見直すと監督の狙いもよく分かります。たしかに、私が考えたように普通にやっちゃうと怨念劇にならなかったかもしれません。自分の父親への復讐だけのために気が狂ったように。怨念だけで一生を生きているわけですから。
でも、当時は自然にできないのがどうも耐えられなくて。根津甚八さんも抵抗していらっしゃいました。根津さんはアングラ系劇団のご出身の方ですから、芝居が自然体なんですよ。根津さん、「ヨーイ、スタート」と言われても芝居を始めなかったこともありましたし。最終的に根津さんし自分の自然体をかなり生かしておやりになったんじゃないかと思います。Q:たしかにあの作品では根津さんだけがいつもの「根津流」で通しているといいますか、増村さんの芝居のスタイルと違いますね。声もあまり張っていませんし。
A:根津さんは違っていました。でも杉浦さんは、「増村さんの狙いがあるから。僕はこの演出方法はとてもよく分かる」とおっしゃっていました。私が「分からない」と言ったら、「それでも増村監督に従ってやらないとこの作品は失敗作に終わるから、従ったほうがいい」って。
Q:杉浦さんは大映テレビのドラマで増村さん脚本の作品に出ていますので、流儀が分かっていたのかもしれませんね。
A:それから、これは今思うと私でも信じられないことなのですが、「この子の七つのお祝いに」は「疑惑」後半の一部が掛け持ちだったんです。私としては「疑惑」に神経が行っていたんだと思います。それもあって「この子の七つのお祝いに」は疑問を持ちながら演じたのでわりと記憶から飛んでいたんですよ。

※1982年野村芳太郎監督「疑惑

【ストリー】
次期総理の座を狙う大蔵大臣磯部の私設秘書・秦一毅(村井国夫)の元お手伝い・池畑良子(畑中葉子)が殺された。ルポライター、母田耕一(杉浦直樹)は政界の謎をあばこうと秦の身辺をさぐっていた矢先の事件で秦の内妻、青蛾(辺見マリ)が奇妙な手型占いをするという噂をきく。しかもその的中率を頼んで大物政治家、財界人等が己れの手型を持って続々と詰めかけており、秦自身もこの占いのお陰で現在の地位を築いたというのだ。母田は青蛾の影を追い始める。そんなある日、後輩の事件記者須藤(根津甚八)に、ゆき子(岩下志麻)という変り者の美人ママがいるというバーに連れて行かれる。母田は彼女に強くひかれ、彼のマンションで密会するようになった。だが母田は何者かによって殺害され、須藤は危険を承知で母田の仕事を引き継ぎ、彼の残した足跡を探る。昔、ある麻布のバーに占いのよく当たる娘がいたという事、ママの名前は麗子。そして秦の内妻、つまり青蛾の正体が麗子である事をつきとめる。やがて彼は謎の占いの娘の写真を見せられるが、それは青蛾ではなく倉田ゆき子だった。追いうちをかけるように、須藤のもとに青蛾惨殺の報が届いた。さらに、ホテル王高橋佳哉(芦田伸介)にゆき子から呼び出しがかかった。高橋に同行した須藤の前にゆき子が姿を現わした。ゆき子の告白によれば高橋は母の仇だという。敗戦の混乱の中、妻と生き別れて満州から引き揚げてきた高橋は真弓(岸田今日子)と結ばれ、赤ん坊が生まれた。だがその赤ん坊はすぐに病死し真弓はショックのあまり精神に異常をきたした。高橋はふとした偶然で生き別れていた妻と再会し、真弓の前から姿を消して別に家庭を持った。二人の間に生まれた赤ん坊は、復讐鬼となった真弓に盗まれ、30数年が経過した。その間、真弓に育てられたのが盗まれた赤ん坊のゆき子で、高橋に復讐する事だけを徹底的に教え込まれ、占いという特殊能力を生かし、青蛾を使って高橋が目の前に現われる日を待っていたのだが、途中、おじ気づいた青蛾を殺害した。高橋に、真弓の本当の娘でない事を教えられたゆき子はあまりの残酷さに発狂寸前だった。


村井国夫、辺見マリ                中原ひとみ、根津甚八

題名:この子の七つのお祝いに
監督:増村保造
製作:角川春樹
原作:斉藤澪
脚本:松木ひろし、増村保造
撮影:小林節雄
照明:川崎保之丞
録音:井家眞紀夫
音効:佐々木英世
美術:間野重雄
装置:荒井新一
装飾:神田明良
衣装:相沢登記雄 (松竹衣裳)
美粧:入江壮ニ
結髪:馬場利弘、沢辺満代
記録:山之内康代
編集:中静達治 ネガ編集:南とめ
音楽:大野雄二
現像:東洋現像所
プロデューサー:岡田裕介、中川完治
製作主任:高橋文雄
製作担当:生田篤
製作進行:宮本恵司、大崎裕伸、八鍬敏正
助監督:近藤明男
監督助手:藤由紀夫、加藤仁
撮影助手:竹沢信行、岩本道夫、笠間公夫
特機:塚本貞重
照明助手:国本正義、本田純一、大坂章夫、清野俊博、岡秀雄
美術助手:和田洋 セット付:藤田雄幸
録音助手:舛森強、小川健司
編集助手:大橋富代
スチール:清水紀雄
出演:岩下志麻、根津甚八、杉浦直樹、室田日出男、小林稔侍、辺見マリ、芦田伸介、岸田今日子、中原ひとみ、村井国夫、神山繁、畑中葉子、坂上二郎、名古屋章、戸浦六宏
1982年日本・角川春樹事務所+松竹/ビスタサイズ・カラー111分35mmフィルム
この子の七つのお祝いに -DVD-
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。


岸田今日子                   芦田伸介、根津甚八

映画「遊び」

遊び遊び
大門正明、関根恵子                関根恵子、大門正明

今回は増村保造監督1971年製作「遊び」をピックアップする。
本作は増村保造監督の大映での最後の作品であり、起死回生を狙った大映と日活の共同配給機構”ダイニチ映配”が解消となって倒産寸前の状態になり、本作の製作費が廻らず度々撮影が中断されたそうだ。しかしながら、若き日の蟹江敬三さんや平泉成さん、松阪慶子さん、昭和の日本映画を支えてきた名バイプレーヤーである杉山とく子さん、根岸明美さん、内田朝雄さんが出演しているのは貴重だ。

遊び遊び
内田朝雄                    大門正明、蟹江敬三

【ストリー】
町工場で働く、やっと十六歳になった少女(関根恵子)には、寂しい過去があった。数年前、ダンプの運転手をしていた父(内田朝雄)は、人身事故を起こして以来飲んだくれ、借金を残して死んでしまった。後には、造花の内職をするしか能のない母(杉山とく子)と、カリエスで寝たっきりの姉(小峯美栄子)が残され、少女は借金の返済のために、中学を卒業すると働きにだされた。狭苦しい工場の女子寮では、昼間の仕事に疲れながらもわずかな自由な時間を若い男に賭ける女子工員の熱気でむせかえっていたが、少女だけは、陰気だとののしられながらも寮にとじ込もり、給料を家に送り続けていた。ある日、もと工員のヨシ子(甲斐弘子)が、キャバレーのマネジャーを連れて寮にやってきた。
ヨシ子の口から語られるホステスの生活は、ベルトコンベアーに追い廻される工員たちにとっては夢のようであった。数日後、少女はヨシ子を尋ねるため町に出た。電話帳をめくる少女に、背の高い少年(大門正明)が声をかけた。少年は十八歳。父親は、蒸発し、母親(根岸明美)はおでんの屋台をひき、寂しくなると男をくわえこむ、飲んだくれのどうしようもない母親だったが、少年はぐれながらも面倒をみていた。今は、町のチンピラになった少年の最初のスケコマシの相手が少女だったのである。少年は、喫茶店に誘い、映画館に連れ込み、そして、兄貴(蟹江敬三)の指図する通り、連込み宿へと足を運んだ。少年は、少女の素直さに胸を打たれ、薄汚れた一室で兄貴たちに犯され、後はトルコ風呂(ソープランド)に売られていくことを想うと、少年の胸は震え、やくざのこわさを忘れた。少年は、見張りの宿のおやじを鉄びんでぶん殴り、少女を裏口から連れだし、タクシーに乗り込んだ。夜ふけ、二人は川辺の小さなホテルにたどりついた。少女は、生まれて初めてやさしくされ、母のことも、カリエスの姉のことも貧しかった過去もみんな忘れようとした。少年も兄貴を裏切ったこわさを忘れようとした。二人は浴衣を脱ぎ払った。少女の身体は、まぶしく美しかった。少年は、不器用に、少女の裸体を抱いた。翌朝、朝霧の中、二人は葦原を走り廻った。そして川辺に浮かぶ古い水舟を見つけると沖へ沖へと漕ぎだした。ぶくぶくと沈む舟の中で、服を脱ぎ捨てた二人はしっかりと抱き合った。二人の水舟は、キラキラ輝く海へと流されていった。

遊び遊び

題名:遊び
監督:増村保造
企画:藤井浩明
原作:野坂昭如「心中弁天島」
脚本:今子正義、伊藤昌洋、増村保造
撮影:小林節雄
照明:渡辺長治
美術:間野重雄
録音:須田武雄
編集:中静達治
音楽:渡辺岳夫
現像:東京現像所
助監督:崎山周
スチール:大葉博一
出演:関根恵子(高橋惠子)、大門正明、内田朝雄、蟹江敬三、松坂慶子、平泉征、杉山とく子、小峯美栄子、甲斐弘子、根岸明美、高橋由美子
1971年大映東京撮影所/シネスコサイズ・カラー89分35mmフィルム
遊び -DVD-
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

遊び遊び

映画「清作の妻」


若尾文子                      田村高廣

今回は増村保造監督1965年製作「清作の妻」をピックアップする。
本作は吉田絃二郎氏の同名小説を新藤兼人監督が脚色したものを映画化したもので、日本が軍国主義に突入した日露戦争当時、貧しい農村の娘が村の模範青年と結ばれるが、戦争に奪われる夫との別離に耐えかねて発作的に夫の両目を刺し潰すという激しくも哀しい純粋な女の姿を描いたものだ。


若尾文子、殿山泰司                若尾文子、田村高廣

【ストリー】
お兼(若尾文子)は病身の父を抱えた一家の生計を支えるため、60を越えた隠居(殿山泰司)に囲われた。今その隠居も千円の財産をお兼に残すと他界した。そしてお兼の父も時を同じくして死んだ。大金を手にした母お牧(清川玉枝)は、かつて逃げるようにして離れた村に喜々として帰った。気のすすまぬまま母に従ったお兼は、ものうい放心した日を送っていた。村一番の模範青年清作(田村高廣)の除隊は、お祭り騒ぎの内に迎えられたが、村八分同様のお兼らには関知せざることであった。清作は軍隊で貯えた金で鐘を作り、村人を堕眠から覚ます警鐘を鳴らし、村人からは英雄視されていた。そんな清作とお兼が愛しあうようになったのは、お牧の急病で、清作が医者のもとへ走ってからであった。お牧の野辺送りも清作の尽力で無事終った。二人の結婚は村人の敵視の中で行われ、清作は家を捨ててお兼の家に入った。お兼の性格は一変し、野良仕事に精を出す毎日は、甘く充ち足りた日々であった。だが日露戦争の勃発は、二人の上にも暗い影を落した。清作は召集され、お兼は孤独と冷やかな周囲の目の中で過した。ある日、清作は名誉の負傷を受けて送還された。英雄となった清作に、お兼は殊更村人から疎外された。だが二人の愛情は、周囲の反撥にもめげず高まっていった。やがて傷が癒えて、戦場に帰る時が来た。村人たちは今度は清作が英雄から神になることを期待し、清作も軍国の模範青年たることを疑わなかった。出発の時間が迫り、お兼と清作が二人になった時、お兼は五寸釘で清作の両眼を刺した。突差の出来事に呆然とする村人の中で、お兼は半狂乱であった。清作が虚飾に満ちた自分の過去を悟り、お兼の愛の深さを知ったのは、日露戦争も終った頃であった。


成田三樹夫                    田村高廣、若尾文子

題名:清作の妻
監督:増村保造
企画:伊藤武郎
製作:永田雅一
原作:吉田絃二郎
脚本:新藤兼人
撮影:秋野友宏
照明:伊藤幸夫
録音:渡辺利一
美術:下河原友雄
編集:中静達治
音楽:山内正
製作主任:上嶋博明
助監督:岡崎明
スチール:椎名勇
出演:若尾文子、田村高廣、紺野ユカ、殿山泰司、小沢昭一、成田三樹夫、清川玉枝
1965年日本・大映/シネスコサイズ・モノクロ93分35mmフィルム
清作の妻 -DVD-
2018年3月現在、DVDレンタルはありません。


小沢昭一、田村高廣                 若尾文子

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