映画「影の車」


「影の車」岩下志麻

岩下志麻                         加藤剛

今回は野村芳太郎監督1970年製作「影の車」をピックアップする。
松本清張氏原作の映画化で定評ある橋本忍さんと野村芳太郎さんのコンビが、日常性の奥に潜む恐怖を描いた作品である。主な舞台を東急田園都市線・藤が丘駅周辺の”ささおやま団地”として浜島の勤務先を旅行代理店、妻・啓子の職業をフラワー教室とするなど、時代背景を高度経済成長の進行を踏まえた設定にしている。また浜島の幼年期の回想シーン(潜在意識による被害妄想)は、多層分解処理を用いた映像効果で表現している。


「影の車」多層分解カット

【多層分解】
撮影を担当された川又昂氏と光学技術担当の石川智弘氏は、大船撮影所内に現存していた旧式のオプチカルプリンターを駆使して撮影した後のポジ・フィルムから3原色分に分解したネガを3本作り、それぞれを8~4コマ分ずらしてポジに焼く事で、全体の色がズレた画面を創り上げ、この色ずれしたフィルムの最初のネガからカラーポジと白黒ポジ2本焼いて、さらに撮影風景の明るい部分だけの素粒子を強調するハイコンポジをもう1本焼いた上で、この3本のポジを重ね焼きした。この3色分解とレリーフ効果を合わせた映像効果を多層分解と言う。


小川真由美                   岩崎加根子、滝田裕介

【ストリー】
浜島幸雄(加藤剛)はある日、幼馴染の小磯泰子(岩下志麻)の呼びかけにふりかえった。この偶然こそ、平凡な男の生涯を根底からゆさぶる運命の声であった。浜島は旅行案内所に勤続12年の係長で妻の啓子(小川真由美)は万事に社交好きで陽気である。毎日が会社と団地の往復、生活も仕事も単調で味気ない浜島は、泰子に会って同じバスに乗っただけで軽い興奮があった。二度目に泰子に会った時、すすめられるままに泰子の家を訪ねた。4年前に夫に死なれた泰子は6歳の健一(岡本久人)と二人暮し。保険の集金と勧誘でつつましい生活だ。健一は父親がないためか、孤独癖のある無口な子供だった。夢多き思春期の共通の追憶に話がはずみ、浜島の泰子への傾斜は急ピッチであった。やがて、狭い泰子の家では、健一の眼が浜島には苦手な存在になった。だが、自然の成り行きで二人は結ばれた。初夜のように白無垢の長襦袢で浜島を迎えた泰子がいじらしかった。浜島は健一を手なづけようと、心をくだいたが、その都度失敗した。浜島にも幼い日に夫を失った母と伯父との間に立たされた忘れ得ぬ記憶があったから健一の反感が必要以上に応えた。そして、健一が自分を殺そうとしている突飛な幻想に悩まされはじめた。一度は妻と別れて泰子と結婚しようと決心しながら、健一のことを考えるとまた泰子を諦らめようかと思い迷った。空閨を癒やされた泰子は啓子への後ろめたさも、浜島を見る健一の白い目にも心を向けず、ひたすら愛欲の歓びに溺れた。紅葉のころ、浜島苦心のドライブ旅行も小さな健一の本能的な男性にはね返されてしまった。浜島は再び幻影の虜になった。宿命というには、余りにも似かよった浜島自身の幼年期の体験。あの時のように俺は健一に殺される。泰子は浜島のノイローゼを満ちたりた笑いで一蹴した。しかし、おそるべき運命の符合は、悪魔のいたずらか、結末が逆になった。浜島が健一の首をしめてしまったのだ。浜島は6歳の子供である健一が鉈をふりかざして、浜島に迫った殺意を信じている。たとえ世間のすべての人が否定しようとも、かつて6歳の浜島が自覚した殺意の衝動、憎悪の瞬間を事実として告白し、一生叫びつづけなければならないのだ。


「影の車」岩下志麻

岩下志麻、加藤剛                  加藤剛

題名:影の車
監督:野村芳太郎
製作:三嶋与四治、杉崎重美
原作:松本清張「潜在光景」
脚本:橋本忍
撮影:川又昂
照明:三浦礼
録音:栗田周十郎
整音:松本隆司
美術:重田重盛
装置:中村良三
装飾:印南昇
衣裳:東京衣装
編集:浜村義康
音楽:芥川也寸志
現像:東洋現像所 光学合成:石川智弘
製作主任:吉岡博史
製作進行:玉生久宗
監督助手:山根成之
スチール:赤井博且
出演:岩下志麻、加藤剛、小川真由美、岩崎加根子、滝田裕介、芦田伸介、近藤洋介、岡本久人、永井智雄、小山梓
1970年日本・松竹/シネスコサイズ・カラー98分35mmフィルム
影の車 -DVD-
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「影の車」岩下志麻

芦田伸介                       岩下志麻