映画「天国と地獄」

天国と地獄
三船敏郎

今回は世界に誇る巨匠黒澤明監督1963年製作「天国と地獄」高評価作品sをピックアップした。
本作は巧妙なプロットもさることながら、登場人物たちの心理描写が秀逸で人間ドラマとしての完成度も非常に高い作品だ。そればかりか映画公開後模倣犯の出現で刑法が改正されるに至る等、社会的影響力の大きさでも知られている。

天国と地獄天国と地獄
三船敏郎                           三船敏郎、三橋達也

本作で舞台となったのは、昭和30年代の横浜、横浜市西区・中区・南区にロケ地が集中している。中でも権藤邸は実際に家を建てたそうだ。また人質確認のシーンで列車の窓から子供の姿を見ようとすると、川と線路の間にある民家の屋根に遮られる。そこで黒澤監督は、屋根を取るように指示した。製作部が民家に頼み込んで東宝大道具部が屋根を壊したという。「構図の邪魔になる民家を取り壊した」とはこの事で、私は本作の後に照明技師に昇格する佐野武治氏から聞いた事があり、改めて興奮して本作を見入ってしまった。壊された屋根は後日、大道具部が造り直したそうだ。当時、映画会社の大道具部は優秀な大工職人が揃っていたのだろう。

151系
151系特急電車こだま号

1958年に151系は、8両3編成を新製し田町電車区(現:東京総合車両センター所属田町センター)に配属され、同年11月1日より営業運転を開始した。運用は「東京~大阪・神戸」駅間の特急「こだま」2往復に充当し所要時間は「東京~大阪」駅間を6時間50分で結んだ。1964年10月に東海道新幹線が開業するまで東海道本線のエースだった。

※現在、東京総合車両センター所属田町センターは「東北縦貫線」開通と「品川~田町駅間」に新駅建設の為に縮小・再開発されています。(2013年3月16日~車両留置不可)

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151系こだま号                  田町電車区

当時、日本最速の列車だったこだま号のシーンで国鉄(現:JR)から実物の「こだま号」用151系特急電車を1編成チャーターし、実際に東海道本線 上を走らせて撮影が行われたそうだ。乗客も食堂車の職員もエキストラを多数動員し、定期ダイヤに割り込んでの撮影は1回限りの為に田町電車区で入念なリ ハーサルが繰り返された。その田町電車区の風景は捜査会議中の回想シーンで153系急行電車(写真右)と共に映っている。

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仲代達矢                     三船敏郎

本作で用いられた「走っている電車等から現金等を落とす」という手法は、後のフィクション作品だけでなく、現実の現金受渡し目的の犯罪で数多く模倣 されている。1963年9月の草加次郎事件、1965年の新潟デザイナー誘拐殺人事件、1984年のグリコ・森永事件、1993年の甲府信金OL誘拐殺人 事件、2002年の新城市会社役員誘拐殺人事件、2004年の大阪パチンコ店部長誘拐事件などの例がある。手法の模倣ではないが、映画の影響を受けて身代 金誘拐に及んだ者もおり、1963年の吉展ちゃん誘拐殺人事件、1980年の名古屋女子大生誘拐殺人事件などの例がある。
(参照:ウィキペディア)

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三船敏郎、香川京子                 香川京子

【ストリー】
ナショナル・シューズの権藤専務は、大変な事件に巻込まれてしまった。明日まで5,000万円を大阪に送らないと、次期総会で立場が危くなるというのに、 息子の純と間違えて運転手の息子進一を連れていってしまった誘拐犯人から、3,000万円をよこさないと進一を殺すという電話があったからだ。苦境に立った権藤は結局金を出すことになった。権藤邸に張りこんだ戸倉警部達は権藤の立場を知って犯人に憎しみを持った。金を渡す場所。それは、明日の第 二こだまに乗れということだった。犯人は戸倉警部達を嘲笑するかのごとく、巧みに金を奪って逃げた。進一は無事にもどった。権藤は会社を追われ、債権者が殺到した。青木は進一の書いた絵から、監禁された場所を江の島附近と知って、進一を車に乗せて江の島へ毎日でかけていった。 田口部長と荒井刑事は、犯人が乗り捨てた盗難車から、やはり江の島の魚市場附近という鑑識の報告から江の島にとんだ。そこで青木と合流した二人は、進一の 言葉から、ついにその場所を探り出した。その家には男と女が死んでいた。麻薬によるショック死だ。
一方、戸倉警部は、ある病院の焼却煙突から牡丹色の煙があがるのをみて現場に急行した。金を入れた鞄には、水に沈めた場合と、燃やした場合の特殊装置がな されていたのだ。燃やすと牡丹色の煙が出る。その鞄を燃やした男はインターンの竹内銀次郎とわかった。また共犯者男女ともかつてこの病院で診察をうけてお り、そのカルテは竹内が書いていた。今竹内をあげても、共犯者殺人の証拠はむずかしい。戸倉警部は、二人の男女が持っていた二百五十万の札が、藤沢方面に 現われたと新聞に発表する一方、竹内には、二人が死んでいた部屋の便箋の一番上の一枚に、ボールペンで書きなぐった後を復元した、「ヤクをくれヤクをくれ なければ……」という手紙を巧妙に渡して、腰越の家に罠を張って待った。そして、竹内には十人からの刑事が尾行についた。竹内は横浜で麻薬を買った。肺水腫に犯された二人が麻薬純度90%のヘロインをうって死なないはずがない。竹内はそのヘロインを今度は、伊勢崎町の麻薬中毒者にあたえてためそうとい うのである。果して一グラム包0.3%を常用している中毒者は忽ちにしてショック死した。彼は薬の効果を確かめてから、二人の男女中毒者をおいておいた腰 越の別荘に走った。そこには、すでに戸倉警部の一行が、ずっとアミを張って待っているのだ・・・。

天国と地獄天国と地獄
※151系洗面所の換気窓は7センチだけ開く構造になっている。
※この鞄は、吉田カバン創業者である吉田吉蔵氏によって特注製作されたもの。

題名:天国と地獄
監督:黒澤明
製作:田中友幸、菊島隆三
原作:エド・マクベイン
脚本:小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明
撮影:中井朝一、斎藤孝雄
照明:森弘充
録音:矢野口文雄
整音:下永尚
音響:三縄一郎
特機:大隅銀造
美術:村木与四郎
小道具:野島秋雄
衣裳:鈴木身幸
記録:野上照代
編集:黒澤明
音楽:佐藤勝
現像:キヌタ・ラボラトリー
製作担当:根津博
助監督:森谷司郎
監督助手:松江陽一、出目昌伸、大森健次郎
撮影助手:原一民
編集助手:兼子玲子
スチール:副田正男
出演:三船敏郎、仲代達矢、三橋達、也香川京子、江木俊夫、佐田豊、島津雅彦、山崎努、志村喬
1963年日本・東宝/シネスコサイズ・モノクロ143分35mmフィルム
天国と地獄 [DVD]
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

天国と地獄天国と地獄
山崎努  ※若いインターンの犯人役の山崎努さんは、この映画がデビュー作だった。

映画「からっ風野郎」

からっ風野郎からっ風野郎
三島由紀夫                                                                船越英二、志村喬

今回は増村保造監督1960年大映製作「からっ風野郎」をピックアップする。
主演は日本文学界を代表する作家であり、既に世界的に高名な作家でもあった三島由紀夫氏だ。

企画の発端は、講談社の編集者・榎本昌治氏が親交のあった大映企画部の藤井浩明氏に「三島由紀夫で映画を創る」という話を持ちかけた事に始まり、三 島氏とも親交があった藤井氏は、大映社長の永田雅一氏の快諾を得て、増村保造監督と白坂依志夫氏(脚本家)の3人で企画が進められた。三島氏からの注文 は、「ストーリーは任せる、インテリの役は絶対にやらない、ヤクザとか競馬の騎手とかの役をやりたい。」というものだったそうだ。

三島由紀夫氏は、本作から10年後の1970年11月25日に陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地内東部方面総監部へ楯の会メンバー4名と共に訪れ、面談中に突如、益田兼利総監を、人質にして籠城しバルコニーから檄文を撒き、自衛隊の決起・クーデターを促す演説をした直後に割腹自決した。享年45歳だった。

からっ風野郎からっ風野郎
若尾文子 ※若尾文子さんは、三島由紀夫氏が指名してキャスティングが決まったそうである。

【ストリー】
「百十一番の朝比奈だね」確かめるのと拳銃の轟音と同時だった。が、がっくりつんのめったのは全くの人違い。それは面会を代った囚人だった。殺し屋の狙っ た朝比奈一家の二代目武夫は難を逃れてその日出所した。殺し屋を向けたのは新興ヤクザ相良商事の社長相良雄作、武夫が父の復讐のために大怪我をさせ、それ が武夫の二年七カ月のムショ入りの原因となったのだ。武夫はまず情婦の昌子に会った。女はすぐ燃えたが、武夫は非情だった。腕時計一つで彼女と手を切った。お荷物は一切綺麗にしとくんだと言って。武夫の根城 は映画館コンパルだった。そこで新しいもぎりの芳江に会った。彼女は町工場に勤める兄の正一に弁当を届けにいき、ストライキにまきこまれブタ箱に入れられ た。機会が訪れた。大親分雲取からの法事の招待状だった。武夫にも相良にも。が、寺には相良は来ず、代理として現われたのが殺し屋ゼンソクの政だった。武 夫はツイていた。政がゼンソクの発作を起し、弾丸はそれて左の掌を射ち抜いたきりだった。芳江が現われ、もう一度雇ってくれと頼みこんで来た。武夫は抱い た。彼女から妊娠したと聞いた時不思議にも武夫は芳江に愛情を感じたのだ。堕ろせといっても芳江はきかない。その前後、武夫は相良の娘みゆきを誘拐し相良 をおどしたが、相良も芳江の兄を監禁して抵抗した。芳江の身に危険を感じた武夫は、九州の田舎へ身をかくすよう勧めた。東京駅へ芳江を送って行った武夫 は、生まれてくる子供のための毛糸を買いに、下のデパートに走った。その武夫に政の一弾が襲った。武夫はエスカレーターの上に倒れた。エスカレーターはそ の武夫を乗せたまま静かに上へと動いていった。

からっ風野郎からっ風野郎

題名:からっ風野郎
監督:増村保造
企画:藤井浩明、榎本昌治
脚本:菊島隆三、安藤日出男
製作:永田雅一
撮影:村井博
照明:米山勇
美術:渡辺竹三郎
録音:渡辺利一
編集:中静達治
音楽:塚原晢夫
現像:東京現像所
出演:三島由紀夫、若尾文子、船越英二、志村喬、川崎敬三、神山繁
1960年日本・大映/シネスコサイズ・カラー96分35mmフィルム
からっ風野郎 [DVD]
2013年12月現在、DVDレンタルはありません。
からっ風野郎からっ風野郎
神山繁 (写真右)エスカレーターから転落するシーンで三島氏は、頭を打ち切り傷を負い入院したそうだ。

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