映画「東京物語」
笠智衆 東山千栄子、笠智衆
今回は巨匠小津安二郎監督1953年製作「東京物語」をピックアップする。
本作は、日本映画を代表する傑作として世界中の映画監督からオマージュされている事で知られているが、中でもヴィム・ヴェンダース監督「東京画」は観るべき作品だ。
「東京物語」は、”小津調”と形容される独自の演出で、或る家族を通して本質を冷徹に描いている。それは62年後の現代でも通ずるテーマであり、この静かな説得力は近年の日本映画にはなく、尊敬に値する。いわゆるテレビホームドラマ等とは、“質”も”格”も違う名作である事は言うまでもない。
世界各国で最も高い評価を受ける日本映画の最高傑作。世界の映画監督358人が選ぶ「最も偉大な映画」1位に輝いた(英国映画協会/2012年)。
広島・尾道でロケ撮影をする為、笠智衆、原節子、香川京子ら銀幕俳優が尾道を訪れた。1953年当時に地方ロケは珍しく、また映画黄金期のスタア陣が来る ということもあり尾道は熱狂。笠智衆、香川京子が現地入りした駅はホームにまでファンが詰めかけ大混乱し、迷子が続出。翌日に遅れて原節子が現地入りした 際も入場券が飛ぶように売れ、混乱を避ける為に一つ先の糸崎駅で下車させるほどの熱狂ぶりだった。
原節子
本作のネガフィルム原版は、1960年の現像所火災により消失し、存在しない。
白黒全盛の時代だった撮影当時でもアセテート・フィルム(不燃性)に切り替わっていたと思われるが、クレジットを見ると松竹自社現像所の様だ。そして2003年と2011年に松竹が、映写用ポジフィルムからデジタル・リマスターとして修復を行った。2011年版については、当時撮影助手を務めた川又昻氏が、製作時のタイミング(グレーディング)を知る数少ない当事者としてアドバイスし、修復作業をイマジカ(旧・東洋現像所)で行った。
通常のデジタル修復に加えて画質の明暗の再調整、手作業によるプリントやサウンドトラックのノイズ修正など、きめ細かな修復が行われたそうだ。
※アセテート・フィルムが劇場用映画に使われたのは1950年代から。
※川又昻氏の撮影作品「日本の夜と霧」「青春残酷物語」「太陽の墓場」※大島渚監督作品(松竹)
※デジタル技術の進展に伴い、デジタル素材による最終保存の可能性が取り沙汰されているが、現在もデジタル媒体がフィルムの解像度に追いついていない事、デジタル・フォーマットの世代交代の度に全映像をコンバートするのは時間面でも費用面でも非現実的な事から、オリジナル素材であるフィルムを確実に保存した上で、各時代のデジタル素材に複製して活用するべきというのが各国のフィルム・アーカイブ共通の結論である。(参照:ウィキペディア:監修筆者)
【追記・訃報】
女優の原節子(はら・せつこ、本名・会田昌江=あいだ・まさえ)さんが2015年9月5日に肺炎のため神奈川県内の病院で死去した。1935年に日活多摩川撮影所に入社し「ためらふ勿れ若人よ」でデビュー。役名「節子」をそのまま芸名にし「原節子」となったと言う。その後東宝へ移籍し、黒澤明監督の戦後初の作品「わが青春に悔なし」に出演、1947年にフリーとなる。1949年に初めて小津安二郎監督と組んだ「晩春」に出演。1961年の「小早川家の秋」まで小津作品に計6本出演した。
東野英治郎、笠智衆 東山千栄子、原節子
【ストリー】
周吉、とみの老夫婦は住みなれた尾道から20年振りに東京にやって来た。途中大阪では三男の敬三に会えたし、東京では長男幸一の一家も長女志げの夫婦も歓待してくれて、熱海へ迄やって貰いながら、何か親身な温かさが欠けている事がやっぱりものたりなかった。それと云うのも、医学博士の肩書まである幸一も志げの美容院も、思っていた程楽でなく、それぞれの生活を守ることで精一杯にならざるを得なかったからである。周吉は同郷の老友との再会に僅かに慰められ、とみは戦死した次男昌二の未亡人紀子の昔変らざる心遣いが何よりも嬉しかった。
ハハキトク--尾道に居る末娘京子からの電報が東京のみんなを驚かしたのは、老夫婦が帰国してまもなくの事だった。脳溢血である。とみは幸一にみとられて静かにその一生を終った。駈けつけたみんなは悲嘆にくれたが、葬儀がすむとまたあわただしく帰らねばならなかった。若い京子には兄姉達の非人情がたまらなかった。紀子は京子に大人の生活の厳しさを言い聞かせながらも、自分自身何時まで今の独り身で生きていけるか不安を感じないではいられなかった。東京へ帰る日、紀子は心境の一切を周吉に打ちあけた。周吉は紀子の素直な心情に今更の如く打たれて、老妻の形見の時計を紀子に贈った。
翌日、紀子の乗った上り列車を京子は小学校の丘の上から見送った。周吉はひとり家で身ひとつの侘びしさをしみじみ感じた。
山村聰、杉村春子 香川京子
題名:東京物語
監督:小津安二郎
製作:山本武
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
照明:高下逸男
録音:妹尾芳三郎
整音:金子猛
美術:濱田辰雄
装置: 高橋利男
装飾:守谷節太郎
衣裳: 齋藤耐三
編集:濱村義康
音楽:斎藤高順
現像:林龍次
助監督:山本浩三
撮影助手:川又昂
出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聰、三宅邦子、香川京子、東野英治郎、中村伸郎、大坂志郎
1953年日本・松竹/スタンダードサイズ・モノクロ135分
東京物語 [DVD]
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笠智衆 ※映画史上に残る名ラスト・シーン