映画「天使の恍惚」



吉澤健                        横山リエ

今回は待望の若松孝二監督1972年製作「天使の恍惚」をピックアップする。
私は本作を劇場で複数回観たが、時代を突破する世界観と秀逸な演出で創り上げた若松監督のエポックとなる作品だと思う。
本作は、1971年12月24日に新宿の追分派出所付近で爆弾が爆発して重軽傷者を出した”クリスマスツリー爆弾事件”から暫くして公開(’72年3月)された作品で、私はその生々しさに強い衝撃を受けた覚えがある。当時は、同様の爆弾事件がしばしばあったのだ。
そんな状況の中、ATGでの封切りが1週間で打ち切られ、若松監督を始めスタッフや女優の横山リエさんが、事件とは無関係なのに警察から取り調べを受けたそうだ。(監督談)
私は、この様な現在進行形の題材を扱うだけで、圧力が掛かかるという事が許される社会が正しいとは決して思わない。この頃は、スタッフもキャストも毅然と戦っていた。
いつからその姿勢が見られなくなったのだろうか?私は推移を傍観していただけだったのだろうか?先輩諸氏が残してくれた作品に、私は自問自答する。

作品リスト


荒砂ゆき                       天使の恍惚

【ストリー】
キャンドルライトが闇の中から湧き出た様に浮び、周囲の闇は深い拒絶を示している。女歌手の唄声……。人気のないナイトクラブで秘やかに祝杯があげられる。革命軍「四季協会」の秋軍団が首都総攻撃を期し、米軍基地襲撃、武器奪取作戦を敢行するのだ。
全裸の秋(荒砂ゆき)と十月(吉澤健)が抱き合う。激しく秋を攻める十月。恍惚のさなかで誓い合う革命天使二人。闘いの始まり。首都をもやしつくそうとする炎が、今、その炎の手を上げようとしている。
基地への突入隊は十月組隊長以下月曜から日曜までの八名の兵士。その半数が戦死し、リーダーの十月は弾薬の爆発で目を負傷する。別動隊の九月組は姿を見せず、女指揮官秋が現われ、アジトへの待機を指令する。過大の犠牲を払い手に入れた爆弾兵器は、冬軍団二月組によってクラブの歌手である金曜日(横山リエ)の部屋から徴収され、金曜日と月曜日(本田竜彦)はすまじいまでのリンチにたたきのめされてしまう。全裸の冬(吉田潔)に組み敷かれてしまう秋、あえぐ秋、冬の駆使するテクニックは凄い。冬に責め上げられて逆上してゆく秋の白い五体。冬軍団の爆弾闘争の成果が伝えられる中で、十月は失明、傷つき果てた十月組に、組を解体、秋軍団を解散した上で、冬軍団と統一し、連合冬軍を結成せよとの協会の指令が伝えられる。上部の予定されきった指令に月曜日(本田竜彦)は怒り、一匹狼として爆弾闘争を開始する。秋に籠絡された土曜日(小野川公三郎)は、冬との統合を十月に迫るが、十月と金曜日は十月組のオトシマエは自身の手でつけるべく、決意表明としてアジトを爆破、逆に土曜日に十月の兵士として決意を迫る。化粧ケースに爆弾をつめ、やりたいことをやると出かけてゆく金曜日、爆弾闘争をあくまで個的に持続させる月曜日、街へ飛び出す土曜日、パトカーの渦の中で爆弾をふりかざし駆けめぐる土曜日を秋の車が救い出す。金曜日の唄声が流れるクラブ。秋軍団の解散式。十月は来ない。じれる秋の背に金曜日の歌が突きささる。秋が絶叫する。本気で孤立出来る奴、自分の身体だけで闘える奴、個的な闘いを個的に闘える本気の奴らが十月組なんだ!孤立した精鋭こそが世界を換える。世界を創る。十月!私は今飛ぶわ、あなたと、あなた達と!秋におそいかかる数人の男たち、血か飛翔する。大爆発。月曜日が爆弾をかかえ野分けのように走る。金曜日が駆けめぐる。一本の華麗な火柱、十月の兵士の壮絶な爆死。爆弾を背負った土曜日が、そして盲目のリーダー十月が風景の中へ溶け込んでゆく。あとは、静かな戦場の風景が、風に吹かれているだけである。


天使の恍惚

題名:天使の恍惚
監督:若松孝二
企画・製作:葛井欣士郎、若松孝二
脚本:出口出(足立正生)
撮影:伊東英男
照明:磯貝一
録音:杉崎喬
音効:秋山実(福島効果グループ)
編集:田中始
音楽:山下洋輔
製作主任:岩淵進
製作進行:山田力
助監督:沖島勲
演出助手:川島義和、和光晴生
撮影助手:高間賢治、橘満
照明助手:前田基男、福井通夫
現像:東映化学工業
スチール:中平卓馬
出演:吉沢健、横山リエ、本田竜彦、荒砂ゆき、小野川公三郎、柴田秀勝、松島真一、吉田潔、小山田昭一、大泉友雄、三枝博之、足立正生、岩淵進、秋山ミチヲ、山下洋輔トリオ
1972年日本・日本ATG+若松プロダクション/スタンダードサイズ・パートカラー90分35mmフィルム
天使の恍惚 -DVD-
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。


山下洋輔トリオ                    天使の恍惚

天使の恍惚

【出演】
十月:吉澤健
月曜日:本田竜彦
火曜日:大泉友雄
水曜日:三枝博之
木曜日:小山田昭一
金曜日:横山リエ
土曜日:小野川公三郎
日曜日:和島真介
秋:荒砂ゆき
九月:松島真一
十一月:柴田秀勝
冬:吉田潔
二月:岩淵進
二月軍団1:足立正生
二月軍団2:布川徹郎
二月軍団3:渡辺亜人
二月軍団4:古旗吾郎
少女1:神野ジーナ
少女2:大橋真理
米兵1:ゲーリー・ドレーン
米兵2:ダーロー・エヴァンス
男1:山下洋輔
男2:森山威男
男3:中村誠一
ギターリスト:秋山ミチヲ

 

映画「旅の重さ」

旅の重さ旅の重さ
高橋洋子                       岸田今日子

今回は斎藤耕一監督1972年製作「旅の重さ」をピックアップする。
本作は素九鬼子氏の同名小説を映画化したもので、母親との生活に疲れ四国遍歴の旅に出た十六歳の少女の数奇な体験と冒険をオール・ロケで詩情豊かに描いている。主役オーディションで1位と2位だった高橋洋子さんと秋吉久美子さんのデビュー作だそうだ。私にとって新宿のATGで観た懐かしく微笑ましい作品である。

旅の重さ
三國連太郎                       高橋悦史

【ストリー】
「ママ、びっくりしないで、泣かないで、落着いてね。そう、わたしは旅に出たの。ただの家出じやないの、旅に出たのよ……」。十六歳の少女(高橋洋子)が、貧しい絵かきで男出入りの多い母(岸田今日子)と女ふたりの家庭や、学校生活が憂うつになり、家を飛び出した。四国遍路の白装束で四国をぐるりと廻って太平洋へ向う。宇和島で痴漢に出会い、奇妙なことにご飯をおごってもらう。少女は生まれて初めて、自然の中で太陽と土と水に溶けていく自分を満喫した。足摺岬の近くで、旅芸人・松田国太郎(三國連太郎)一座と出会い、一座に加えてもらった。少女は一座の政子(横山リエ)と仲良くなり、二人でパンツひとつになり海に飛び込んだりして遊ぶ。一座には他に、色男役の吉蔵(園田健二)、竜次(砂塚秀夫)、光子(中川加奈)など少女にとっては初めて知り合った人生経験豊かな人間たちである。やがて、少女は、政子に別れを告げると、政子が不意に少女の乳房を愛撫しだした。初めて経験するレスビアン。政子は、少女の一人旅の心細さを思って慰さめてやるのだった。ふたたび少女は旅をつづける。数日後、風邪をこじらせ道端に倒れてしまった。が、四十すぎの魚の行商人・木村(高橋悦史)に助けられた。木村の家に厄介になり、身体が回復するとともに少女の心には木村に対して、ほのかな思いが芽生えてきた。ある日、木村が博打で警察に放り込まれた。やがて木村が釈放された夜、少女は彼に接吻したが、木村は少女の体まで求めようとはしなかった。少女はみじめな思いで家を飛びだし、泣きながら道を走り、転び、倒れたまま号泣するのだった。思い直して家へ戻る途中、近所の娘加代(秋吉久美子)が自殺したのを知った。「私には加代が自殺した原因がわかるような気がする。私もこの旅に出なければ自殺したかも知れない……」。加代が火葬された日、少女は木村の家へ戻り、夜、静かに抱かれた。不思議な安息感があった。次の日より、少女と木村の夫婦生活が始まった。そして、少女も夫といっしょに行商に出るようになった。「……ママこの生活に私は満足しているの。この生活こそ私の理想だと思っているの。この生活には何はともあれ愛があり、孤独があり、詩があるのよ」。

005旅の重さ
横山リエ                    横山リエ、高橋洋子

題名:旅の重さ
監督:斎藤耕一
製作:上村務
原作:素九鬼子
脚本:石森史郎
撮影:坂本典隆
照明:津吹正
録音:栗田周十郎
整音:松本隆司
美術:芳野尹孝
衣装:松竹衣裳
編集:浜村義康
音楽:吉田拓郎 主題歌:今日までそして明日から
現像:東洋現像所
助監督:吉田剛
スチール:長谷川宗平
出演:高橋洋子、岸田今日子、三國連太郎、横山リエ、砂塚秀夫、高橋悦史、山本紀彦、三谷昇、秋吉久美子、園田健二、中川加奈
1972年日本・松竹/シネスコサイズ・カラー90分35mmフィルム
旅の重さ [DVD]
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

旅の重さ
秋吉久美子                       高橋洋子

映画「音楽」

音楽音楽
細川俊之                  黒沢のり子

今回は増村保造監督1972年ATG製作作品「音楽」をピックアップした。
原作が三島由紀夫氏である事と主演の黒沢のり子さんの大胆なヌードで話題となった作品だ。私は新宿のATGで観た記憶がある。確か映画プログラムも持っていた。
今見ると「随分お金のかかってない作品だなぁ」と思うが、ATGの制作費は公称1,000万円で賄ったのだ。作品は場面数が少ない分、設定のチョッとオーバー目な演技と俳優陣に引き込まれてしまった。

音楽音楽
森次浩司

本作は大映で「兵隊やくざ」「陸軍中野学校」などのヒット作を生み出した増村保造監督作品である。
テレビドラマでも大映ドラマと言われた路線を確立した「ザ・ガードマン」「山口百恵・赤いシリーズ」「スチュワーデス物語」などの監督・脚本を担当された。
1980年に日本とイタリアの合作映画「エデンの園(GIARDINO DELL’EDEN)」を監督されたが、1986年11月に62歳で亡くなられている。

音楽音楽
高橋長英                    横山リエ

【ストリー】
汐見は都心のビルに診療所を持つ若く有能な精神分析医である。ある日、診療所に若く美しい女性が現われた。彼女は、音楽が聞こえない、と言うのである。彼女はテレビやラジオを聞いても、セリフや物音は明瞭に聞えるが、伴奏音楽だけが耳もとから消えて索莫としてしまう。それから彼女・麗子は自分のことを話し出した。彼女の家は地方の旧家で、東京の女子大を出ると、東京で貿易会社に務めたこと、現在の恋人は同僚の江上という青年であること、少女時代、親の決めた婚約者俊二に処女を奪われ、そのことを江上に告白できず悩んでいるのだと話した。治療は回を重ねていった。そして、汐見は麗子が音楽が聞こえないというのは嘘で、実は江上とのセックスを感じないということを知った。そこで汐見は治療を自由連想法にきりかえ、心に浮んだことをすべて語らせることにした。麗子の幻想--子供のころの麗子。切紙をしている。青い折紙が青空に変り、鋏が空を切る。黒い割れ目から走り出す牛。牛の角が男のものに変り襲いかかる。鋏をみがいている麗子。その鋏がいつの間にか巨大になり麗子の両脚になる。美しい麗子の伯母がいる。麗子の寝ている隣の部屋の伯母のところに、黒いシャツに黒いズボンの若い男が忍び込む。もつれ合う二人--。汐見は男のものになる鋏は麗子の良心、女の脚になる鋏は麗子の欲望であることを告げ彼女が男を愛しながら男を憎んでいることを看破し、それは子供のころの異状なセックス経験に起因していると判定する。麗子は遂に告白した。少女時代、兄に愛撫されたこと、黒いシャツの男は兄で、伯母とのことが世間に知れ兄は家出してしまったこと、そして江上と初めて会った時、彼は黒シャツと黒ズボンで兄そっくりであったから好きになった、と。数日後、癌で危篤の俊二を見舞ったとき、麗子はやせ細った彼の胸に彼女の手を当てると恍惚とした表情で「音楽が聞こえる」と叫ぶ。又海岸で不能を嘆き自殺しようとしている青年・花井を抱き、男をよみがえらせる。「私が感じるのは病人か不能の相手だけ」と当惑する麗子。麗子の不感症は治っていなかった。汐見は兄のことを問いつめていった。麗子の回想--女子大の寮にやくざじみた男が訪ねてくる。兄である。まるで恋人同志のような二人。兄のアパートで話していると情婦が帰ってくる。女は兄が妹だといっても信用せず、正直に白状したら帰してやると言う。兄は子供の頃から麗子を好きだと言うと、女はその証拠を見せろと迫る。兄は麗子を抱きすくめる。うめき、あえぐ麗子。ベッドのそばに光る鋏、それを手にする麗子。しかし、兄を刺すことも、自殺もできない麗子。鋏が手から落ちる--。彼女の告白を聞き終えた汐見は、治す方法は唯一つ、もう一度兄に会わなければならない、と麗子に言いきかす。荒れ果て、汚れ、世帯じみた兄の部屋。赤ン坊が泣いている。唖然とする麗子、目から涙があふれる。汐見は全てを理解した。麗子の真の欲望は兄の子供を生むことだったのである。そのためには自分の子宮をいつも空けておかなければならない。だから病人や不能者にだけは楽しめるのである。不感症は子宮を守る努力だったのである。しかしその努力は無駄骨になってしまった。兄の子供はもう生まれてしまったのだ。「これで貴方の病気は治りました」と汐見は優しく麗子に言うのだった。それから一週間後、汐見のもとに麗子から電報が届いた。『オンガクオコル」オンガクタエルコトナシ」エガミ』

音楽音楽
藤田みどり

題名:音楽
監督:増村保造
製作:藤井浩明
原作:三島由紀夫
脚本:増村保造
撮影:小林節雄
照明:越村高幸
美術:間野重雄
編集:中静達治
音楽:林光
出演:黒沢のり子、細川俊之、高橋長英、三谷昇、藤田みどり、森次浩司、横山リエ
1972年日本・ATG/スタンダードサイズ・フジカラー103分35mmフィルム
音楽 [DVD]
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

音楽

1 2 3