映画「サンダカン八番娼館 望郷」


「サンダカン八番娼館 望郷」栗原小巻

栗原小巻                        田中絹代

今回は熊井啓監督1974年製作「サンダカン八番娼館 望郷」をピックアップする。
本作は、ボルネオの島へと売春の出稼ぎに渡った“からゆきさん”と呼ばれる日本人少女たちの、悲惨な実態を描き、事実の持つ圧倒的な説得力に感嘆する。本作が遺作となった日本映画を代表する女優、田中絹代さんが渾身の演技を魅せてくれる。


高橋洋子                        浜田光夫

【ストリー】
女性史研究家・三谷圭子(栗原小巻)は、今、ボルネオの北端にあるサンダカン市の近代的な街に感慨を込めて佇んでいる。ここは、その昔、からゆきさんが住んでいた娼館の跡であり、サキ(高橋洋子)が現在もそこにいるような錯覚すら覚えるのだった……。圭子とサキの出会いは3年程前になる。からゆきさんの実態を調べていた圭子は、天草を訪ねた時、身なりの貧しい小柄な老婆と偶然めぐりあった。それがサキ(田中絹代)であった。圭子は、サキがからゆきさんであった、との確信を強め、また、サキの優しい人柄にひきつけられ、波瀾に富んだであろう過去を聞き出すために、サキとの共同生活を始めた。やがて、サキはその重い口を徐々に開いて、その過去を語り出した……。サキの父は彼女が4歳の時に世を去り、母は父の兄と再婚した。サキが12歳の時、サンダカンで娼館を経営する太郎造(小沢栄太郎)はサキに外国行きをすすめ、前金300円を渡した。サキはその金を兄・矢須吉(浜田光夫)に送金し、人手に渡った畑を買い戻して幸福な生活をするように願い、村の仲間、ハナ(中川陽子)、ユキヨ(梅沢昌代)と共にサンダカンへと発った。当時のサンダカンは、英領北ボルネオにおける最大の港町で、日本人の経営する娼館が九軒あり、一番館、二番館と名づけられており、太郎造の店は八番館であった。八番館に着いて一年後、サキは客を取るように言い渡された。借金はいつの間にか2,000円にふくれあがり、13歳のサキにその借金の重みがズッシリとのしかかり、地獄のような生活が始った。だが、そんな生活の中にもサキは、ゴム園で働いている竹内秀夫(田中健)との間に芽生えた愛を大切に育てていった。そしてある日、太郎造が急死し、女将のモト(神保共子)はサキたち4人を余三郎(梅野泰靖)に売り渡した。余三郎はサキたちをプノンペンへ連れて行こうとするが、新しく八番館の主人となったおキクの尽力で、サキとフミだけはサンダカンにとどまることになった。おキク(水の江滝子)が主人となってからは、八番館は今までと違って天国のようだった。そして秀夫との愛に酔いしれたサキだったが、ある日突然、秀夫はゴム園の娘との結婚を告げ、サキに別れを告げた。サキの初恋は砂上の楼閣のように、もろくも崩れ去った。数年を経て、おキクはひょっこり現われた余三郎との口論の最中倒れた。おキクはサンダカンで死んだ日本人を弔うために共同墓地を作っていた。おキクを葬ったサキは帰国したが、母は既に死に、兄の矢須吉もサキが外国帰りということで外聞を気にして避けるようになっていた。天草はサキにとって、もはや故郷ではなくなっていた。その後渡満したサキは結婚、男の子を生んだ。だが戦争は夫も財産も奪った。やがて帰国したサキは、息子と京都で暮すが、彼が20歳を過ぎた頃、サキ一人で天草へ帰された。結婚するにはからゆきさんの母親が邪魔になるのだろう……。圭子とサキの生活は3週間続いた。だが、村人は二人への疑惑を燃え上がらせた。圭子がサキの実態を書けば村の醜聞が知れ渡るからだ。圭子は取材を断念するとともに、自らの素姓を明かしてサキに詫びた。だが、サキは圭子を慰め、温い愛情で勇気づけるのだった……。そして今、圭子はジャングルの中でおキクや秀夫の墓を発見した。望郷にかりたてられて死んでいった日本人たち。だが、それらの墓は、祖国・日本に背を向けて立てられていた……。


浜田光夫、高橋洋子               栗原小巻、中谷一郎

題名:サンダカン八番娼館 望郷
監督:熊井啓
製作:佐藤正之、椎野英之
原作:山崎朋子「サンダカン八番娼館- 底辺女性史序章」
脚本:廣澤栄、熊井啓
撮影:金宇満司
照明:椎葉昇
録音:太田六敏
美術:木村威夫
音楽:伊福部昭
編集:中静達治
現像:東洋現像所
製作担当:内山甲子郎
監督補:宮川孝至
助監督:相澤徹
スチール:岩井隆志
出演:栗原小巻、田中絹代、高橋洋子、浜田光夫、中谷一郎、水の江滝子、田中健、岩崎加根子、水原英子、小沢栄太郎、砂塚秀夫、岸輝子、山谷初男、梅野泰靖、菅井きん、藤堂陽子、柳川由紀子、中川陽子、梅沢昌代、神保共子、牧よし子
1974年日本・俳優座映画放送+東宝/スタンダードサイズ・カラー121分35mmフィルム
第25回ベルリン国際映画祭主演女優賞受賞(田中絹代)
サンダカン八番娼館 望郷 -DVD-
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。


水の江滝子                       小沢栄太郎

山谷初男                        田中健

栗原小巻、田中絹代                 菅井きん、高橋洋子

映画「地の群れ」

地の群れ地の群れ
鈴木瑞穂                    奈良岡朋子、鈴木瑞穂

今回は熊井啓監督1970年製作「地の群れ」をピックアップする。
本作は1969年にに日活を退社した蔵原惟繕、熊井啓、藤田敏八、浦山桐郎、吉田憲二、河辺和夫、神代辰巳、各監督(敬称略)が、大塚和プロデューサーと設立した”えるふプロダクション”とATG(アートシアターギルド)が提携し、井上光晴氏の同名原作を原作者本人と熊井啓監督が脚色し映画化したものだ。

地の群れ地の群れ
鈴木瑞穂、、松本典子

【ストリー】
昭和16年、宇南少年(鈴木瑞穂)は、炭坑で朝鮮人の少女を妊娠させ、少女の姉宰子(水原英子)に、その責任を追及された。「俺は知らんよ」少年は、ただその場かぎりの返答をして炭坑を去った。暗い時が流れた。成長した少年は、佐世保に診療所を開いていた。彼の患者に、明らかに、原爆病と思われる少女がいた。だが、母親の光子(奈良岡朋子)は、自分が被爆者であることを頑固に否定した。それというのも、佐世保には、海塔新田と呼ばれる被爆者の集落があり、その集落民と思われることを恐れてのことだった。字南の父は、原爆で死んだ。爆心地に、父を探し求めた彼自身もまた、放射能の被害を受けたかも知れない。さらに、自分が、被差別部落出身者であることを知った字南は、子供をつくるまいと決心した。妻の英子には、その夫の気持が理解できず、不毛のいさかいが続いた。そんなある日、被差別部落出身の徳子(紀比呂子)が、診察を頼みに来た。暴行された証明書を書いてくれというのだった。童顔な徳子(紀比呂子)。字南の脳裡に、朝鮮人の少女を姦した自分の姿が、鮮烈によみがえった。少女は間もなく自殺、それを幸いに炭坑を去り、長崎医専に進んだ宇南。彼は、そんな自分に嫌悪し、恐怖にかられるのだった。徳子が強姦された、という噂は、それまで平穏をよそおっていた被差別部落を、異常な雰囲気で包んだ。容疑は、徳子と知りあいの原爆被災者青年信夫(麦人)にかけられた。警察は、確証を得られず信夫を釈放。この一件を通して信夫と徳子の心は互いに近づきあった。だが、二つの集落の中には長年にわたり潜在していた怨念、憎悪がうずまき、真犯人があがったにもかかわらず、そして、信子の意志にもかかわらず火を吹きあげた。徳子の母親松子(北林谷栄)が被爆者の投石にあって死にいたり、信夫は暴徒と化した二つの集落民に追われるはめになった。地の果てまでも……。

地の群れ地の群れ
紀比呂子                        宇野重吉

題名:地の群れ
監督:熊井啓
製作:大塚和、高島幸夫
原作:井上光晴
脚本:熊井啓、井上光晴
撮影:墨谷尚之
照明:鈴木貞雄
録音:太田六敏
美術:深民浩
記録:佐久間淑子
編集:丹治睦夫
音楽:松村禎三
現像:東洋現像所
スチール:墨谷尚之
出演:鈴木瑞穂、紀比呂子、奈良岡朋子、寺田誠、松本典子、北林谷栄、佐野浅夫、水原英子、宇野重吉、麦人
1970年日本・ATG+えるふプロダクション/スタンダードサイズ・モノクロ127分35mmフィルム
地の群れ [DVD]
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

地の群れ地の群れ
松本典子、鈴木瑞穂                鈴木瑞穂、奈良岡朋子