映画「全身小説家」
井上光晴
今回は、原一男監督1994年製作のドキュメンタリー映画「全身小説家」をピックアップする。
原一男監督は私に毎作感動と驚きを与えてくれる。本作も容赦ない追及は真実に迫り、息を呑む。原一男監督は今、日本映画で映画監督と言える数少ない一人だ。
【解説】
「地の群れ」「虚構のクレーン」などで知られる戦後派の作家・井上光晴は、昭和52年に佐世保で文学伝習所を開いた。以後全国13ケ所に広がった。その伝習 所を中心に、彼は各地方で体当たりの文学活動を実践してきた。映画はその伝習所に集った生徒たちとの交流や、そして特に伝習所の女性たちが語るエピソー ド、文壇で数少ない交友を持った埴谷雄高、瀬戸内寂聴らの証言を通して、井上光晴の文学活動=生そのものを捉えて行く。撮影準備直後、井上にS字結腸 癌が発生し、いったん手術は成功するもののやがて肝臓へ転移していく。カメラは彼がその癌と戦う姿も生々しく撮り続けるが、平成4年5月、遂に井上光晴は 死を迎える。映画はさらにその井上自身の発言や作品を通して語られた彼の履歴や原体験が詐称されていたという事、つまり、文学的な虚構であったという事実を、親族や関係者への取材を通してスリリングに明らかにしていく。そしてその虚構の風景を、映画はモノクロームのイメージシーンによって再現する。フィ クションの映像をドキュメンタリーの中に取り入れることによって、まさに(虚構と現実)を生きた文学者の全体像に迫ろうとした、渾身の作品となった。
【当ブログで紹介した原一男監督作品】
1972年「さようならCP」
1974年「極私的エロス 恋歌1974」
1987年「ゆきゆきて、神軍」
1994年「全身小説家」
2004年「またの日の知華」
題名:全身小説家
監督:原一男
製作:小林佐智子
撮影:原一男、大津幸四郎(イメージ篇)
照明:吉山清二(イメージ篇)
録音:栗林豊彦
美術:竹内公一(イメージ篇)
美術協力:木村威夫
編集:鍋島惇
音楽:関口孝
フィルム:日本コダック
現像:ソニーPCL
助監督:小林明、福岡孝浩、真島洋一、高根美博(イメージ篇)
スチール:高橋昌(イメージ篇)
出演:井上光晴、埴谷雄高、瀬戸内寂聴、金久美子、山本与志恵、磯春陽、窪田匡哉、杉山裕哉
1994年日本・疾走プロダクション=ユーロスペース/スタンダードサイズ・パートカラー147分(本編)
(イメージ篇)
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全身小説家