映画「遠野物語」


原陽子                      仲代達矢、隆大介

今回は村野鐵太郎監督1982年製作「遠野物語」をピックアップする。
本作は柳田國男氏の「遠野物語」と阿伊染徳美氏の「わがかくし念仏」をペースに 岩手放送開局30周年記念映画として制作された。撮影は岩手県遠野市(南部曲り家・千葉家、旧宮守村)、山形県鶴岡市(湯殿山注連寺・七五三掛桜)のロケセットで行われたそうだ。


江波杏子                    滝田裕介、藤村志保、原陽子

【ストリー】
明治37年、日露戦争の頃。岩手県南部遠野郷の豪農、佐々木家の一人娘小夜(原陽子)は、17歳になった。この日、霊山・早池峰の麓の寺では、オシラサマの祭りが行なわれていた。オシラサマとは養蚕の神で、馬に乗り天に昇った玉依伝説以来の信仰である。その夜、佐々木家では旅の琵琶法師乙蔵(仲代達矢)を招いていた。澄んだ琵琶のひと打ちで始まる「清悦物語」。その琵琶の音に門の前でじっと耳を傾けていた若者がいる。3年間の兵役を終えて、いま帰ってきた武夫(隆大介)である。武夫の家は、かつては佐々木家と並ぶ豪農であったが、父の代で没落し、いまでは佐々木家の小作として働いている。武夫も帰って来た翌日から佐々木家の馬小作となった。厩舎には、長男初太郎(役所広司)が目をかけている白馬がいた。その白馬には不吉な印<星>があった。武夫の前に小夜が現われ声をかけるが、武夫は頭を下げるとそのまま行ってしまう。二人は子供の頃から許婚の間柄だったが、武夫の家の没落で自然消滅、それでも小夜の思いは変わらないようであった。やがて日露戦争が激しくなり、小夜には縁談が持ちこまれる。思いあまった彼女は、武夫に相談しようとするが「住む世界が違います」と突っぱねられた。早池蜂の八幡神社の祭りの日、佐々木家の白馬は神馬に見たてられ、そして遠野独特の神楽舞いが始まった。この数日後、小夜は草刈り場で働く武夫を訪ね本心を問うが、武夫は何も言わず帰ろうとした。その手を押さえる小夜、だが彼は小夜の手を振りほどくのであった。そこへやってきた初太郎に、乱暴されたと小夜は言う。その夜、彼女は厩舎をたずねた。闇の中の武夫は、初太郎に鞭で打たれて傷だらけだった。思わず後ずさる小夜を、武夫は初めて抱きしめた。この後、武夫の姿は村から消えた。そして、ある夜乙蔵が小夜を訪ね、武夫からの預り物だと言って美しい柄の着物がたたまれている包みを渡す。この日から小夜は、何か心に決めたようで、両親にはっきりと縁談を断り、粉雪の舞う中、裸足でお百度を踏む。怒った両親は娘を部屋にとじこめた。ある夜、厩舎の白馬が柵をこわして走りだし、小夜も武夫から贈られた晴着を着て原野へと走り出した。失踪に気づいた家の者たちは騒ぎだす。その頃、早池峰山の稜線には、青白い炎に包まれて疾駆する白馬があった。その背ではロシア戦線にいるはずの武夫が、純白の軍服に身を包み、しっかりと小夜を抱いていた。白馬はたてがみをなびかせて、天に向かって駆けぬけていった。


原陽子、仲代達矢                    役所広司

題名:遠野物語
監督:村野鐵太郎
企画:河野逸平、原正人
製作:太田俊穂、佐藤正之、村野鐵太郎
原作:柳田國男「遠野物語」、阿伊染徳美「わがかくし念仏」
脚本:高山由紀子
撮影:吉岡康弘
照明:山田和夫
録音:日吉裕治
音効:小倉信義
美術:間野重雄、神田明良
装飾:中道正伸
結髪:小田節子
衣装:新井喜一(京都衣装)
編集:諏訪三千男 ネガ編集:青木千恵
記録:宮崎信恵
音楽:姫神せんせいしょん
現像:東洋現像所
プロデューサー:菅原正、久原正之
製作担当:林秀樹
製作助手:北島和久、渡辺螢子
監督補:笠倉隆
撮影補:馬場順一
助監督:鈴木政信、吉岡敏朗
撮影助手:下元哲
照明助手:熊谷茂、浅井勉、大里耕治
美術助手:正田俊一郎
編集助手:磯谷実
琵琶指導:川野虎雄
俳優担当:北川義浩、進藤淳一
協力:岩手県、遠野市、和賀町、山形県朝日村
スチール:西川ひろし
出演:隆大介、原陽子、江波杏子、仲代達矢、藤村志保、滝田裕介、役所広司、片桐夕子、峰岸徹、川口敦子、井川比佐志、菅井きん、葉山良二、長岡輝子
第35回サレルノ国際映画祭グランプリ受賞
1982年日本/スタンダードサイズ・カラー110分35mmフィルム
遠野物語 -DVD-
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。


江波杏子、原陽子                    遠野物語

映画「女の中にいる他人」

女の中にいる他人女の中にいる他人
小林桂樹                       三橋達也

今回は成瀬巳喜男監督1966年製作「女の中にいる他人」をピックアップする。
本作の原作はエドワード・アタイヤのミステリー小説「細い線」を映画化したものだ。成瀬巳喜男監督作品でミステリーものは珍しいが、迫る心理描写に気品と崇高さがある仕上がりになっている。007シリーズ5作目の「007は二度死ぬ(007 YOU ONLY LIVE TWICE/ルイス・ギルバート監督1967年)」のボンドガール若林映子さんが出演しているのが嬉しかった。

女の中にいる他人女の中にいる他人
新珠三千代                    草笛光子

【ストリー】
梅雨がまだ明けない頃、田代勲(小林桂樹)、杉本隆吉(三橋達也)は夕刻の赤坂で出会った。同じ鎌倉で隣り合わせに住む二人だが、田代は東京の雑誌社に勤め、杉本は横浜に建築事務所をもち、東京で顔を合わせるのは珍らしいことであった。その日杉本はたまたま東京に勤める妻のさゆり(若林映子)を訪ねたのだ。だが、さゆりは不在であった。その夜田代と飲んで帰宅した杉本に、さゆりの友人加藤弓子(草笛光子)から、妻さゆりの死が伝えられた。赤坂の弓子のアパートで絞殺されたというのだ。赤坂、それは田代と杉本が偶然出会った場所である。さゆりの死は杉本家と親しいつきあいをする田代家にとっても大きなショックであった。しかもその死に方が情事の末の絞殺とあっては。さゆりの葬式の日、田代は始終誰かの視線を感じていた。弓子は田代をみつめながら記憶をたどっていた。三月頃さゆりと一緒に出て来た男は確かに田代であった。弓子は疑惑を深めていった。犯人が挙がらぬまま事件も忘れられた頃、田代は妻の雅子(新珠三千代)にさゆりと関係があったと告白した。雅子は夫の神経を餌んでいた原因をやっとのみこんだ。さゆりは情事に首を絞められて喜ぶ女であった。悌惚と頭を閉じたさゆりの細い首に田代の指が喰いこんでいった。恐ろしい出来事であった。田代は雅子に全てを話した。雅子は殺人犯のレッテルを粘られる家族のことを思い、自首することを必死にとめた。だが田代の心は再び良心の呵責にせめられた。田代はいたたまれず杉本に告白した。瞬間、事の重大さに動揺した杉本だったが、やはり杉本も家庭の平和を主張して自首をとめた。しかし田代の決心は日に日に固まっていった。“罪を隠して生きるよりも自首した父の方が人間として立派なことを子供もわかってくれるはずだ”。夫の決心を知った雅子は夫のグラスに白い薬を落した。妻として、母としての雅子にはこれ以外方策はない。女の中にいる恐ろしい他人の心が犯した冷酷な殺人であった。

女の中にいる他人女の中にいる他人
加東大介、小林桂樹              新珠三千代、小林桂樹

題名:女の中にいる他人
監督:成瀬巳喜男
製作:藤本真澄、金子正且
原作:エドワード・アタイヤ
脚本:井手俊郎
撮影:福沢康道
照明:石井長四郎
録音:斎藤昭
整音:下永尚
美術:中古智
編集:大井英史
音楽:林光
現像:キヌタ・ラボラトリー
製作担当:坂本泰明
助監督:川西正純
スチール:石月美徳
出演:小林桂樹、三橋達也、新珠三千代、草笛光子、若林映子、長岡輝子、加東大介、藤木悠、黒沢年雄
1966年日本・東宝/スタンダードサイズ・モノクロ102分35mmフィルム
女の中にいる他人 [DVD]
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

女の中にいる他人女の中にいる他人
若林映子

映画「東京暮色」

東京暮色東京暮色
有馬稲子                      笠智衆

今回は巨匠小津安二郎監督1957年製作「東京暮色」をピックアップする。
本作は、小津監督にとって最後の白黒作品であり、大女優山田五十鈴が出演した唯一の作品でもあるが、暗く陰鬱な雰囲気が漂う内容が際立った作品でもある。
この時代の情景は、生まれていた人なら何処かに記憶が残るが、昭和40年代以降に生まれた人には未知だ。しかし、生まれていたとしても大人の事情は知る由もないが、どこかで見たリアリティのある所作、言葉、顔に微かに見覚えがある。それは作品が時代に呼応してたという事だろうか。

作品リスト

【追記・訃報】
女優の原節子(はら・せつこ、本名・会田昌江=あいだ・まさえ)さんが2015年9月5日に肺炎のため神奈川県内の病院で死去した。1935年に日活多摩川撮影所に入社し「ためらふ勿れ若人よ」でデビュー。役名「節子」をそのまま芸名にし「原節子」となったと言う。その後東宝へ移籍し、黒澤明監督の戦後初の作品「わが青春に悔なし」に出演、1947年にフリーとなる。1949年に初めて小津安二郎監督と組んだ「晩春」に出演。1961年の「小早川家の秋」まで小津作品に計6本出演した。

東京暮色東京暮色
原節子

【ストリー】
定年もすぎて今は監査役の地位にある銀行家杉山周吉は、都内雑司ケ谷の一隅に、次女の明子とふたり静かな生活を送っていた。長女の孝子は評論家の沼田康雄に嫁いで子供もあり、あとは明子の将来さえ決まれば一安心という心境の周吉だが最近では心に影が芽生えていた。それは明子の帰宅が近頃ともすれば遅くなりがちでしかもその矢先姉娘の孝子までが沼田のところから突然子供を連れて帰ってきたからだ。明子には彼女より年下の木村憲二という秘かな恋人があった。母親がいない寂しさが、彼女をそこへ追いやったのだが、憲二を囲む青年たちの奔放無頼な生活態度に魅力を感じるようにいつかなっていた。しかも最近、身体の変調に気がついた彼女が、それを憲二に訴えるとそれ以来彼は彼女との逢瀬を避けるようになった。そして、焦慮した彼女は、憲二を探して回ったがその際偶然、自分の母についての秘密を知った。母の喜久子は周吉の海外在任中にその下役の男と結ばれて満洲に走ったが、いまは東京に引揚げて麻雀屋をやっていたのだ。既に秘かに堕胎してしまった明子には、これは更に大きな打撃であった。母の穢れた血だけが自分の体内を流れているのではないかという疑いが、彼女を底知れぬ深淵に突落してしまったのだ。蹌踉として夜道へさまよい出た彼女は、母を訪ねて母を罵り、偶然めぐりあった憲二の頓にさえ怒りに燃えた平手打を食わせ、そのまま一気に自滅の道へ突き進んで行った。その夜遅く、電車事故による明子の危篤を知った周吉と孝子が現場近くの病院に駈けつけたが明子は殆どもう意識を失っていた。その葬儀の母の帰途、孝子は母の許を訪れ、明子の死はお母さんのせいだと冷く言い放った。喜久子はこの言葉に鋭く胸さされ東京を去る決心をした。また、孝子も自分の子のことを考え、沼田の許へ帰っていった。雑司ケ谷の家は周吉ひとりになった。所詮、人生はひとりぼっちのものかも知れない。今日もまた周吉は心わびしく出勤する……。

東京暮色東京暮色
山田五十鈴

題名:東京暮色
監督:小津安二郎
製作:山内静夫
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
照明:青松明
録音:妹尾芳三郎
美術:浜田辰雄
装置:高橋利男
装飾:守谷節太郎
衣裳:長島勇治
編集:浜村義康
音楽:斎藤高順
現像:林龍次
監督助手:山本浩三
撮影助手:川又昂
出演:原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴、高橋貞二、杉村春子、山村聰、信欣三、田浦正巳、中村伸郎、宮口精二、浦辺粂子、三好栄子、藤原釜足、増田順二、長岡輝子、菅原通済
1957年日本・松竹/スタンダードサイズ・モノクロ140分35mmフィルム
東京暮色 [DVD]
本作はゲオ宅配レンタルでご覧になれます。

東京暮色東京暮色
笠智衆、山村聰               山田五十鈴、中村伸郎