映画「神阪四郎の犯罪」
森繁久彌 新珠三千代
今回は久松静児監督1956年製作「神阪四郎の犯罪」をピックアップする。
本作は、石川達三氏原作の法廷サスペンスを映画化したものだ。森繁久彌さんの演技で締まって見える作品だが、証拠皆無の裁判サスペンスはインパクトがない。それにしても森繁久彌さんは名優であると思った。
左幸子 瀧澤修
【ストリー】
三景書房の編集長神阪四郎(森繁久彌)は、検事(金子信雄)の冒頭陳述によると、勤務先における業務上横領が発覚するや、これを糊塗するためかねて関係のあった被害者梅原千代(左幸子)のダイヤの指環に眼をつけ、詐取する手段として被害者の厭世感を利用し、偽装心中を図ったという。証人として出廷を求められた今村徹雄(滝沢修)、永井さち子(高田敏江)、神阪雅子(新珠三千代)、戸川智子轟夕起子()の4人は各人各様の証言をするが、果して真実を衝いたものであったろうか。評論家今村徹雄の証言午=神阪はいかなる場合も俳優で、彼の語る言葉は台詞にすぎない。千代との情死も関係者の同情をひく手段であろう。編集部員永井さち子の証言=利己主義者で嘘つきだ。妻子のあることをかくし、甘言を並べて自分を欺いた神阪は、ひとたび秘密がバレるや、極力自分を陥れようとした。したがって千代の場合も、巧みに欺かれたのにちがいない。妻雅子の証言=自分は誰よりも良人を愛している。深夜、寝床を蹴って仕事に没頭する良人は、いつも家庭の喜びを与え得ないおのれを私に詫びた。これほど仕事を愛する良人が、罪を犯すとは絶対に考えられない。歌手の戸川智子の証言=神阪は駄々ッ子で世間知らずだから、皆から利用されたのだろう。また死んだ千代の日記には、何かと自分の不幸を慰めてくれた神阪に感謝しているが、病気で入院することになったとき、初めて神阪に妻子があると知り、同時に売却方を依頼してあった母の形身の指環を彼から偽物だといわれ、死を決意し、彼に心中を迫ったと記してあった。最後に神阪四郎は次のように叫んだのである。嘘だ。すべての証言は自分に都合のいいことばかりいっている。思いもよらぬ汚名をきせられ、初めて人間社会の醜さを知りました。これ以上、とやかく申し上げますまい。そして、まもなく、護送車に揺られて行く未決囚たちの中に、神阪四郎の顔が見られた。果して彼は犯罪者なのであろうか?。
森繁久彌、轟夕起子 高田敏江、森繁久彌
題名:神阪四郎の犯罪
監督:久松静児
製作:岩井金男
原作:石川達三
脚本:高岩肇
撮影:姫田真佐久
照明:岩木保夫
録音:八木多木之助
美術:木村威夫
記録:君塚みね子
編集:近藤光雄
音楽:伊福部昭
製作主任:櫻井宏信
助監督:宮野高
出演:森繁久彌、新珠三千代、左幸子、瀧澤修、金子信雄、高田敏江、轟夕起子、宍戸錠、清水将夫、深見泰三、下條正巳
1956年日本・日活/スタンダードサイズ・モノクロ111分
森繁久彌、新珠三千代 森繁久彌